「紳士の酒」
高橋 尚毅

 ニッカの創業者である竹鶴政孝氏が初めてウイスキーを飲んだ時...

 それは当時の就職先である摂津酒造(現在は宝酒造と合併)の社長から「これがウイスキー。紳士の酒や」と勧められた時だと言われています。
 
 竹鶴政孝氏はウイスキーを一口飲んだ時『身体にバリバリと電気が走った』と後述してます。
私はこの『ウイスキーは紳士の酒』というフレーズが大変好きです。
 
 私がウイスキーを初めて飲んだのはもう30数年も前のことで、それはもう適当な飲み方で紳士の酒とは程遠い飲み方でした。
しかしバーテンダーを志しシングルモルトウイスキーを初めてストレートで飲んだ時、本当に身体に電気が走ったのを覚えています。
 
 それは味が濃くて豊潤で甘くうっすらと煙を感じ、飲み込んだ後も喉にまとわりつくようなオイリーさ、そして息を吐けばもう一度感じる香り...飲み干したグラスを嗅ぐと感じるチョコレート香。
 
 さらに違う銘柄のウイスキーをおかわりすると明らかに違う香りと味わい。
 
若い頃は感じる事ができなかった深い味を知り、なるほどこれが紳士の酒なのだなと。
 
 その後、ウイスキーに関する書物を読みまくり、ウイスキーを飲みまくり、それでも想いは止まらずなけなしのお金を握りしめてスコットランドへ二週間の一人旅。
 
 往復の飛行機だけを予約して、当地では飛行機、電車、レンタカーを乗り継ぎスコットランドの島(ウイスキーの聖地と言われるアイラ島)とスコットランドの北部(ハイランドと呼ばれる地域)あたりの蒸溜所を10箇所以上まわってきました。
 
 初めて訪ねたラフロイグ蒸溜所でポットスティルを見上げた時『わお!怪獣みたい』と感動したことは一生忘れません。
 
 語学もままならぬ無謀旅ですが、ガッツがあれば何でもできることをこの時初めて知った気がします。
 
 それから数年後、前述の竹鶴政孝氏のドラマ『まっさん』が放送されて日本でもウイスキーブームが起こりました。
 
 私のお店(タイニーバブルス)でもウイスキーを飲まれるお客様も増えましたが、それでもやはり東京や大阪...都会に比べるとその文化はまだまだ発展の途中です。
 
 お酒の楽しみ方には各地の歴史的背景による文化や、また個人の嗜好もありますのでさまざまな楽しみ方をされるのがいいと思います。
 
 それでも飲まず嫌いをするにはやはり勿体ない『紳士の酒』ウイスキーです。
 
 紳士の酒と言いましても、近年は淑女のウイスキー愛好家も増えており、女性が美味いウイスキーを一口含みニッコリする表情と仕草は例えがたい美しさです(笑)
 
 キツいストレートを飲まなくても、ハイボールやロックや水割り...つまり自分に合った楽しみ方を知れば誰もがウイスキーの虜になる...私はそれくらいウイスキーが素晴らしいものだと思ってます。
 
 長くなりましたが、これを読んでいただいた方は次回酒場を訪ねる機会がある時に少しこの文章を思い出して飲んでくれることがあれば幸いです。
そして私もまた皆さんと美味いウイスキーを一緒に楽しめる機会を楽しみにしてます。
 
 ありがとうございました。